小児泌尿器領域の腫瘍
腫瘍の発生の全体像
小児泌尿器に発生するする腫瘍は、腎、膀胱・前立腺・腟、性腺(精巣・卵巣)の各部位で異なり、同じ部位でも年齢によって発生する腫瘍が異なります(表:ここをクリック)。
各腫瘍の特徴
腎に発生する腫瘍
1.先天性間葉芽腎腫(せんてんせいかんようがじんしゅ)
生後3ヵ月までの乳児では最も頻度の高い腎腫瘍で、胎児期の間葉細胞類似の細胞が増殖しています(図A, 図B)。小児の腎腫瘍の3-6%を占めます。悪性度の低い腫瘍とされ、外科的に完全切除されれば予後は良好です。
2.腎芽腫
最初にこの腫瘍の起源を明らかにしたMax Wilmsにちなんで、ウィルムス腫瘍とも呼ばれています。
発生頻度は8千の小児に1人の割合で、2~4歳に好発し、腎腫瘍の9割を占めます。見かけ上の被膜を有し1つの巨大な腫瘍塊が増殖するような形態をとります。5%が両側性です。11番染色体の短腕13番と15番の欠失が原因で発生する場合があり、この部位に癌抑制遺伝子が存在すると考えられています。WAGR症候群(無虹彩症を特徴)、Beckwith-Wiedemann(ベックウィズ-ヴィーデマン)症候群(巨大舌、臍帯ヘルニア、巨人症が特徴)など、多くの症候群に合併します。予後は良好で、現在の治療プロトコールを用いれば生存率は9割を超えるますが、diffuse anaplasia(ディフューズアナプラジア)といった特殊な組織型は、予後不良です。
3.ラブドイド腫瘍
早期に脳転移を来し、中枢神経系悪性腫瘍を合併しやすい極めて予後不良な腎腫瘍です。小児腎腫瘍の2%を占め、90%は3歳までに発見されます。
4.明細胞肉腫(めいさいぼうにくしゅ、clear cell sarcoma、クリアーセルサルコーマ)
胞体の明るい細胞で構成された腫瘍で、骨転移やリンパ節転移をきたしやすく予後不良です。小児腎腫瘍の4%を占め、平均発症年齢は3歳です。
5.腎癌(じんがん)
小児にも成人に発生する腎癌が発生します。全体の5%程度で、10歳代の小児腎腫瘍では50%を占めます。腎芽腫や神経芽腫の治療後に発生する場合があり、化学療法や放射線治療との関連が考えられています。3割の症例でX染色体短腕11.2のTFE3やTFEB領域への転座が発見されています。比較的予後はよいです。
膀胱・前立腺・腟に発生する腫瘍
横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)
胎児期の中胚葉や間葉系組織に由来する腫瘍です。泌尿生殖器発生は全体の25%を占めます。10歳以下が70%です。組織型は胎児型と胞巣型に分類されますが、ブドウの房のように膀胱内腔や腟内に飛び出して発育する胎児型が多いです。泌尿生殖器は予後良好なグループですが、前立腺と膀胱発生は腟原発より予後不良です。
性腺 せいせん(精巣 せいそう・卵巣 らんそう)に発生する腫瘍
性腺細胞となる胚細胞(はいさいぼう)由来の腫瘍です。胚細胞が増殖した悪性腫瘍が卵巣に発生したものをディスジャーミノーマ(dysgerminoma)、精巣に発生するものをセミノーマ(seminoma)と呼び、ともに思春期に好発します。胚細胞が分化し胚芽外組織(はいががいそしき)になった段階で癌化した腫瘍が卵黄嚢癌(らんおうのうがん)です。
男女ともに4歳に最初の発生ピークがあり、20~40歳に次のピークがあります。胚細胞が胎芽性組織(たいがせいそしき)へ分化したものが良性の奇形腫(きけいしゅ)です。骨、神経、脂肪、皮膚などの3肺葉成分が混在します(図C)。精巣発生のものが、卵巣発生のものより若い年齢で発生します。未熟な成分を含む場合は、転移や再発の危険性があります。